東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2550号 判決
控訴人から被控訴人らに対する東京法務局所属公証人木村冬雄作成第十三万八千八百五十九号不動産抵当金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本にもとずく強制執行は金八十八万六千三百七十六円八十三銭及びこれに対する昭和二十六年三月二十八日から金百円につき一日金五十銭の割合の金員を超える部分については許さない。
被控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を合してこれを三分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
二、事 実
控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「控訴人が被控訴人平戸滋幹から一回金十一万円宛五回にわたり受領した金五十五万円は弁済期前のものは、約定利息として、弁済期後のものは約定利息相当の損害金として、いずれも当事者合意の上授受せられたものである。なお、当事者間においては債務者が債務の履行を怠つたときは爾後元金百円につき日歩五十銭の割合による損害金を支払うべき旨の約定があり、その旨本件公正証書に記載せられていた。」と述べた外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人が昭和二十六年四月四日東京法務局所属公証人木村冬雄作成第十三万八千八百五十九号不動産抵当金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本に基き内金五十万円及び昭和二十六年三月二十七日以降の損害金四万円、準備金三百二十円合計五十四万三百二十円の債権のため被控訴人ら所有の有体動産を差し押えたこと、右公正証書には、「被控訴人平戸滋幹は、昭和二十五年九月二十七日被控訴人平戸文子連帯保証の下に控訴人から金百万円を弁済期昭和二十五年十二月二十七日、利息年一割、毎月二十七日限り翌月分の利息を支払うこと、被控訴人らが債務の弁済を怠つたときは直ちに強制執行を受けるも異議ないことと定めて借り受けた」旨の記載のあることは、当事者間に争のないところである。
しかして、被控訴人らは、右公正証書に表示せられた債権は、元金は金八十五万円に過ぎずかつその後の一部弁済により現在は元金三十二万六千六百九十九円及びこれに対する昭和二十六年二月二十七日から年一割の利息に相当する損害金に過ぎないと主張するので、次にこれに対し判断を与える。
成立に争のない甲第一号証、乙第二号証、同第三号証、原審並びに当審における控訴人代表者玉手正雄の尋問の結果を綜合すれば、被控訴人滋幹は、昭和二十五年九月中控訴人との間に被控訴人文子連帯保証の下に、かつ被控訴人滋幹所有の土地、家屋に抵当権を設定して控訴人から金百万円を期限三ケ月、利息月一割一分前月二十七日にその翌月分の利息を支払うことと定めて借り受ける相談がまとまつたこと、(一)被控訴人滋幹が早急に金員の必要に迫られていたが、抵当権設定登記手続が間に合わなかつたので控訴人は被控訴人らに対しまず同年九月二十五日右金百万円の貸付金の一部として金三十万円を利息金百円につき一日金五十銭と定めて貸し付けることとし、右元金三十万円から昭和二十五年九月二十五日から同年十月十四日までの右割合の利息金三万円を控除して金二十七万円を被控訴人滋幹に交付し、これが支払を確保するため被控訴人ら振出の金額三十万円の約束手形一通を交付せしめたこと、(二)ついで同年九月二十八日前記約旨に基く抵当権設定登記手続がすんだので、控訴人は、残金七十万円から(イ)金七十万円に対する同年九月二十八日から同年十月二十七日までの一ケ月一割一分の割合の利息七万七千円、(ロ)さきの金三十万円の貸付金に対する昭和二十五年十月十五日から同月二十七日まで十三日間の一ケ月一割一分の割合の利息一万四千三百十三円を控除した残額金六十万八千六百八十七円を被控訴人滋幹に交付し、被控訴人らの間に前記公正証書を作成し(公正証書面では期限内の利息は年一割と定めたように記載したが、別に念書(乙第二号証)によつて一ケ月一割一分の利息を支払うことを定めた)、被控訴人ら両名に金百万円の受領書を作成せしめてこれを交付せしめるとともに、被控訴人らに対しさきに受け取つた約束手形一通を返還したことを認めることができる。右認定に反する原審(第一、二回)並びに当審における被控訴人平戸滋幹本人尋問の結果は信用しない。その他右認定をくつがえすに足る証拠はない。
そこで、右認定の(一)(二)の金員の授受によつて幾何の金額につき消費貸借が成立したかを考える。いつたい、消費貸借をなすにあたつて、現実に金員を授受しなくても、借主に現実の授受と同一の経済上の利益を得しめるときは、利益を得しめた金額につき消費貸借が成立すると解せられるのであるが、利息制限法の規定を超過した利息を予め控除したときは、利息制限法の規定を超過した控除部分については借主に経済上の利益を得しめたと解することができないから、その部分については消費貸借は成立しないものといわなければならない。まず右認定の(一)の事実について考えるのに、現実に授受された金二十七万円が元金(Xとする)から利息制限法所定の最高限度の利息である年一割の割合による二十日の利息を控除した額となるように逆算すると、元金(X)は金二十七万一千四百八十七円六十銭となり、この額についてまず消費貸借が成立したことになる。次に右認定の(二)の事実について考えるに控訴人は残額七十万円からまず一ケ月一割一分の割合の一ケ月分の利息七万七千円を控除しているので、まずこの部分につき、消費貸借の成立する元金額を計算するため、金七十万円から右利息七万七千円をまず差し引き、残額金六十二万三千円が元金(Yとする)から利息制限法所定の最高限度の利息である年一割の割合による一ケ月の利息を控除した額となるように逆算すると、元金(Y)は金六十二万八千二百三十五円三十九銭となるので、この額について消費貸借が成立することとなるのであるが、控訴人は(二)の七十万円から更に(一)の三十万円に対する十三日間の一ケ月一割一分の割合の利息一万四千三百十三円を控除しているが、本来(一)の元金(X)は金二十七万一千四百八十七円六十銭であるからこれに対する十三日分の利息制限法所定の最高限度(年一割)の利息は金九百六十六円九十四銭であるべきであるから、これ以上の控除額一万三千三百四十六円六銭(これをZとする)は本来控除すべからざるものを控除したのであるから、(二)の場合の消費貸借はYからZを差引いた残額についてのみ成立したものとみるべく、従つて(一)(二)を合して控訴人と被控訴人らとの間の消費貸借はXとYとを合してZを差引いた残額金八十八万六千三百七十六円八十三銭について成立したこととなる。それ故前段認定の公正証書に表示された消費貸借債権の元金は、八十八万六千三百七十六円八十三銭と見るべく、右公正証書に表示された金百万円の元金は右の限度において債務名義とすることができるものというべきである。
次に被控訴人滋幹が控訴人に対し昭和二十五年十月から昭和二十六年二月まで五回にわたり毎月一回金十一万円ずつを支払つたことは当事者間に争なく、成立に争のない乙第二号証、甲第二号証の一ないし五及び弁論の全趣旨を綜合すれば、右は貸付元金に対する昭和二十五年十月二十八日から昭和二十六年三月二十七日までの約定利息として支払つたことが明らかである。この点についての原審(第一、二回)並びに当審における被控訴人平戸滋幹本人尋問の結果は信用しない。しかして右利息は利息制限法の限度を超過するものであるけれども、当審における控訴会社代表者玉手正雄尋問の結果によれば、被控訴人滋幹は異議をとどめないでこれを支払つたものと認められるから、被控訴人滋幹は右利息制限法の限度を超過する部分を取り戻すことができないものであり、従つて右超過部分を元金の一部弁済に充当することができないものである。
成立に争のない甲第三号証及び原審(第二回)被控訴人平戸滋幹本人尋問の結果によれば、控訴人は被控訴人らに対し右貸付金の弁済期を昭和二十六年六月二十七日まで延期したことを認めることができるけれども、成立に争のない甲第一号証によれば、右消費貸借においては利息を期日に払わなかつたときは期限の利益を失い、かつ期限後の損害金は金百円につき一日金五十銭と定めてあつたことが認められるから、被控訴人らは昭和二十六年三月二十七日中にその翌月分の利息を払わなかつたことにより期限の利益を失つたものと認められ、かつ本件消費貸借は当事者の一方である控訴人が会社であるため商事と認められ、利息制限法第五条の適用がないから、被控訴人らは期限の利益を失つた後は控訴人に対し金百円につき一日金五十銭の割合の予定損害賠償額を支払うべき義務あるものと認める。なお被控訴人らは貸金業等の取締に関する法律を引いているが、右認定の損害賠償額予定の約定は直ちに右法律に違反すると断じ難く、かつ現下の社会情勢の下にあつては公序良俗に反するものともなし難いから、右約定を無効ということはできないから被控訴人らは右約定に基く予定損害賠償額を支払うことを免れ得ない。
よつて前段認定の公正証書記載の金額は一部事実に吻合しないものがあるけれども、債権の同一性については疑をいれる余地がないから、右公正証書は事実に吻合する部分につき債務名義となすことを得るものといわなければならない。
それ故前段認定の公正証書の執行力ある正本に基く強制執行は金八十八万六千三百七十六円八十三銭及びこれに対する昭和二十六年三月二十八日から完済まで金百円につき一日金五十銭の割合の遅延損害金の限度において許容すべきものである。それ故原判決は右の限度において変更し、その余の被控訴人らの請求を棄却すべく、民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪俣幸一)